鉄フライパンは油膜により使いやすくなります。
鉄フライパンを使い始めるためには「シーズニング(油ならし)をしなければいけない」といわれることがあります。これは油をなじませて油膜(樹脂皮膜)を形成させることにより「食材がくっつきにくくなる」「サビにくくなる」などのメリットが得られるためです。
しかし油脂の種類によっては油膜が形成されにくいことがあります。
今回の記事は次のような人におすすめ!
- シーズニング(油ならし)の目的は?
- 油膜(樹脂皮膜)の正体は?
- シーズニングに適した油脂の種類は?
油膜の正体は酸化重合した油脂です。
鉄フライパンにはフッ素樹脂加工(テフロン加工など)のような表面加工が施されていませんので、食材と金属面が直接触れ合うことで料理がくっついてしまうことがあります。そのため油脂を酸化重合させることにより形成される油膜(樹脂皮膜)を利用してくっつきにくくします。
これこそが油をなじませることの目的です。
油をなじませることで油膜が形成される仕組み
油をなじませると油膜が形成されます。
鉄フライパンは200℃以上に熱してから油を加えます。これにより(吸着水や熱膨張の問題により)油なじみが良くなります。鉄フライパンになじんだ油は酸化重合反応により油膜(樹脂皮膜)へと変化していき食材がくっつきにくくなります。
このことからも「油膜=頑固な油汚れ」と言っても過言ではありません。
油脂を構成する脂肪酸は加熱されることにより脂肪酸内の二重結合が移動して共役結合となります。その後に他の脂肪酸とつながって橋渡し結合が発生します。このような重合反応は調理時にも発生していますが高温に熱せられることで加速度的に進みます。
鉄フライパンが日常的に使うことにより扱いやすくなっていくのはこのためです。
シーズニングにおすすめの油脂とは?
シーズニングにはリノール酸が豊富に含まれている油脂がおすすめです。
食用油脂に含まれている脂肪酸はアルキル基にカルボキシル基が結合していますが、油脂の二重結合部は容易に酸素と結合して酸素反応が進みます。生成した過酸化脂質は分解されて低分子のカルボニル化合物となり、さらに酸化が進むと酸素原子を介して架橋が形成されて重合物となります。
そのため鉄フライパンの油ならしには二重結合の数がポイントになります。
二重結合の数 | 相対酸化速度 | |
---|---|---|
ステアリン酸 | 0 | 1 |
オレイン酸 | 1 | 100 |
リノール酸 | 2 | 1200 |
リノレン酸 | 3 | 2500 |
ここで指標になるのがヨウ素価です。
ヨウ素価は二重結合(C=C結合)の数(油脂を構成する脂肪酸の不飽和度)を示す数値であり、その値の大きさによって「乾性油(ヨウ素価130以上)」「半乾性油(ヨウ素価100~130)」「不乾性油(ヨウ素価100以下)」に分類されています。
ヨウ素価が大きいほどに重合しやすく乾きやすい油脂であるということです。
不乾性油 | 半乾性油 | 乾性油 | |
---|---|---|---|
ヨウ素価 | 100以下 | 100~130 | 130以上 |
主な不飽和脂肪酸 | オレイン酸 | オレイン酸 リノール酸 |
リノール酸 リノレン酸 |
主な油脂 | オリーブ油 椿油など |
菜種油 ごま油など |
ヒマワリ油 アマニ油など |
油脂の種類は油膜の性質に影響します。
たとえばヨウ素価の高いアマニ油(168~190)で作られた油膜には「短時間で硬くきれいな油膜が形成される」「割れやすい」などの特徴があり、ヨウ素価の低いオリーブ油(75~94)で作られた油膜には「柔らかく粘度の高い油膜が形成される」「十分な油膜の形成には時間がかかる」などの特徴があります。
これらのことからも、当ブログにおきましては「グレープシードオイル(128~150)」「ハイリノールタイプのヒマワリ油(136~148)」「大豆油(124~139)」などをおすすめしています。
アマニ油でのシーズニングはおすすめしません。アマニ油はリノレン酸比率の高い油脂です。リノレン酸は油酔い(油の加熱により気分が悪くなる現象)の原因物質であるアクロレインの生成量が大きくなりますので体調を崩してしまうリスクがあります。
鉄フライパンは洗剤で洗ってはいけない?
鉄フライパンは洗剤で洗えます。
鉄フライパンを洗剤で洗ってはいけないと言われることがあるのは、油膜へのダメージになる可能性があるためです。同様の理由から「金たわしを使ってはいけない」「トマトなどの酸性食材を調理してはいけない」などと言われることもあります。
洗剤に関しては使っても問題ありません(むしろ定期的に使うべきです)。
金たわしに関しては「よほどの焦げつき汚れを取るのでなければ使わない方がいい」と考えています。金たわしには鉄フライパンの金属面が削れるくらいの研磨力がありますので、油膜や酸化皮膜が除去されてリセットされたような状態になる可能性があります。
トマトなどの酸性食材に関しては程度によります。
鉄は酸に反応しますので、酸性の強い食材を長時間調理してしまうと金属面を溶かして表面が銀色になってしまうことがあります。鉄フライパンが扱いにくくなりますし料理は鉄臭くなります。またアルカリ性の調理にも注意が必要です。鉄は両性金属ではありませんので金属面は溶かされませんが、油膜へのダメージにはなります。
食材のpH(特に酸性食材)関しては多少の注意が必要です。
まとめ・鉄フライパンの油膜とは?
鉄フライパンは油膜により使いやすくなります。
油膜とは油脂が酸化重合することで形成される樹脂層(ポリマー層)であり、シーズニングや日常的に使用する油脂の種類により異なる性質を有する油膜が形成されます。好みの問題はありますが、当ブログにおきましてはハイリノールタイプのヒマワリ油や大豆油の使用をおすすめしています。
油膜の形成は何度でもやり直しがききますので、色々と試してみることをおすすめします。